第1話 幸か不幸か 福岡マラソン
レポート 小原 嘉文



2016年ランニングブームはとどまることを知らず、各地のマラソン大会はエントリーさえ困難な激烈な競争となった。
この物語は某有名ランニングクラブに所属しながらも練習の甲斐なくレース後半は群れから離れ、孤独になってしまうフリーランス(?)ランナー、人呼んでランナーXの情けない物語である。

スタート前
九州電力本社前の安いビジネスホテルでお目覚め。
昨夜のプライベートカーボローディング夕食総決起大会at天神で食べ過ぎ少し胃が重い。
無理してコンビニおにぎり2個を食べて、さあ出陣!
昨夜、天神のスタート地点近くからホテルまで歩いたら意外と距離があったので、重い荷物を背負って無駄に歩くとスタート前に疲れると思いセコく1駅だけ地下鉄に乗る。
「戦略は細部に宿る」竹中平蔵教授の言葉を信じよう。
天神南駅5番出口を出ると市役所東側で荷物預け受付がすぐ近くだった。
ゴールまで一方通行のレースは初めてなので、預けた荷物がブロック、番号別にてきぱきと数台の大型トラックに積みこまれる様子を感心して見つめる?
私の指定席Hブロックはベスト電器本店とアクロス福岡の間の道路。
スタート地点から2街区ほど離れてスタート地点は当然見えない。
比較的早めに並んだので前のほうになった。スマホ持参で走る人が多いこと。当方のウエストポーチはエネルギージェルやら芍薬甘草湯やらで満杯なのでスマホは荷物と一緒に預け済み。
8時前なのに取材のヘリが2機爆音を轟かせて低空で旋回している。近くに大きな病院が。入院患者に迷惑だぜ。

スタート
いよいよスタートの時間だが、ビルの谷間からはセレモニーの音もピストルの音も歓声も全く聞こえない。
5分もかからずにブロックからスタート地点へ向かって移動。
なんか高揚感がなくズルズルとスタートって感じ。
さが桜のほうが大声援の中を今から行くぞって感じで盛り上がる。パルコの前、(私たちの世代には岩田屋本店の前)をスタート。
KBC前の歩道橋から細谷めぐみアナが声援を送っている。
ランナーの中から「かわいい!」と叫ぶ者あり、細谷アナそれに応えて「ありがとう!」TVで見るより一回り顔が小さくて可愛かった。
那の津通りをひたすら西へ、普段は車で通る大通りを走ってるとなんか不思議な感じ。
アミノのオレンジのキャップのランナー発見。「私も佐賀のアミノのメンバーです。頑張りましょう」とノー天気に声をかける私はこの後に己を待ち受ける過酷な運命を知る由もなかった。
よかトピア通りへ。ヤフオクドーム、福岡タワーが見える。
韓国総領事館の前でパククネ大統領はどうなるんだろうと思うが、いやいやマラソンに集中、集中。

5キロ
5キロ地点、34分。計画よりちょっと遅いがスタート直後の混雑を考えるとこんなもんか。ファンランと車いすはここがフイニッシュ。最初の給水所。アクエリアスを補給。
さが桜と違って沿線で応援する知り合いがいるはずがないと思いつつ走ってると愛宕大橋の手前で応援している旧知のNさんと偶然、目が合う。
私以上に先方が驚いていた。
私がマラソンを走ってること、しかも福岡市を走ってることはとても信じられなかったに違いない。
Nさんやっぱりいい所に住んでるなあ。

マリナ通りから唐津街道へ。
トイレは約1.5キロごとに30か所準備されているが、一か所6ブースづつなのでどこも長蛇の列。20人くらい並んでいる。我慢我慢。先に行けば空いてるだろう。
生の松原、日陰になって涼しい。松原の木陰で立ちションしている不届きランナーあり。喝!。さっきまでビルの谷間や市街地を走ってたのと打って変わって観光名所って感じ。元寇防塁。
740年前にここまで攻めて来そうだった某国が最近、尖閣諸島にちょっかいを出すのは当然。防衛力強化せねば。東京支部のFさんしっかり頼みます。

10キロ
10キロ69分。大幅に予定が狂ってるわけではない。まだまだ挽回可能。
Eコーチの教えの通りエネルギージェル補給。
第2収容関門のテントは牧のうどん今宿店駐車場。
そこで私は閃いたのだ。牧のうどんの各店舗トイレは別棟で駐車場にあるはず。探すとテントに隠れてひっそりと?トイレ発見。走りこむとビンゴ!並ばずに用を足すことが出来た。
大正解。他のトイレ待ちランナーより5~8分くらい時間縮。 来年出場のランナーへ、この情報だけは役に立ちます。

15キロ
最初の給食ポイント、スポーツマシュマロ、ミカン。
住宅街を抜けて見通しのいい直線を九大伊都キャンパスへ九大の坂。
車で来たときは緩やかな登坂だし、「ざっといかんばい」のコースを2週続けて走った拙者にとっては軽いと思っていたが、実際に走るとだらだらと長く嫌な感じ。
この折り返しでRDのランナーとすれ違うはずと思い捜す。
Zさんはじめ高速ランナーはすでに通過してすれ違うはずない。IさんやHさんには必ずすれ違うはず。でも誰ともすれ違わなかった。これはいまだに謎。

20キロ
20キロは坂の頂上付近。今年から折り返し点が遠くなり、頂上から一度下ってから折り返し、また少し上ってからだらだら下るというのも感じ悪い。
九大生のチアリーダーたちがコースの両側で応援している。
ひょっとしてこのチアリーダーたちの学力の平均偏差値は九州一?などとどうでもいいことを考えてしまった。
走りに集中!
中間地点を過ぎて、第7給水所。味噌スムージー、ん~、味は微妙。チロリアンはいつもの通り美味しい。2回目のエネルギージェル補給。
ここで、突然の左ひざの痛み。1~2カ月前から左ひざに違和感があったが、突然今まで経験したことのない痛みを感じる。
足が前に出ない。慌てて芍薬甘草湯を服用するが、足がつってるわけではないので効き目なさそう。
えーっこのままあと20キロ走るの~。 直線コースを左折して川沿いの狭い道。1キロ近く沿道に誰もいないのも寂しい。

25キロ
今津運動公園。第8給水所、牧のうどんはランナーのために改良した細麺の豆乳うどんを紙コップでサービス。
敢えて言わせてもらえば普通の牧のうどんとは違う味。贅沢は言いますまい。
エイドで痛みをごまかしながらも今津運動公園を通過するのにえらく時間がかかった。
27キロからは再び海岸沿い。見通しがよくて30キロ地点近くの半島の先までランナーがつながって走っているのが見える。
あそこまで行くと?
長浜海岸、海釣り公園通過、ヨット、プレジャーボート、ウインドサーフィンからの応援有難う。
中には海に浸かっている人もいる。福岡マラソンならではの応援だと思い感謝。

30キロ
狭い半島を横断するようなコースの坂道。傾斜は緩やかだがだらだらと続く。
登り切ったと思ったら頂上まであと200mの表示。ゲゲッ。30キロまで4時間以内で行けばなんとかなるという中間地点での妄想。見事に打ち砕かれる。
第10給水所、ひよこゼリーの蓋を開けるのに悪戦苦闘していると見かねた高校生が開けてくれた。
哀れなおじさんを助けてくれてありがとね。
このあたりから、立ち止まって屈伸をしたりガードレールを使って伸脚しているランナーが多くなった。みんな相当参っている様子。
私は立ち止まらないが、全然走っている感じがしない 再び海岸に出て洒落たレストランやカフェの並ぶ二見が浦。
どの店も天気のいい日曜日に臨時休業で大変だと思っていると、「完走証持参のお客様42.195%引き」と表示した店あり。グッドアイデア! 
35キロまでが遠い!
糸島市の1キロは2000mあるんじゃないの?
やっと海に別れを告げて田園地帯へ。沿道で応援のおばあさんのつぶやき「もうそろそろおしまいやろかね。」とんでもない、まだ後ろから500人以上来まっせ。
と思いつつも情けない。
40キロ少し手前の田圃の一本道。直線がやたらと長く感じる。
そこで、ゲストランナーKYさん発見。
お供2人を連れてランナーを激励するでもなく不貞腐れて歩いている。ギャラもらっているんだったらちゃんと仕事をせんかい!大喝! 
私は自分では走ってるつもりが速足で歩くランナーに抜かれてゆく。錯覚?現実?

40キロ
もうどうにでもなれ。ゴールは確実に近づいている。
なんでもない田舎の道の果ての旧志摩町役場がゴール。
さが桜や青島太平洋のようなゴールの感激がない。自己ワースト記録。6時間を超えてしまった。 フィニシャータオルをボランティアの高校生にかけてもらい完走証を受け取り。
水とバナナを貰うとこまではいつもの通りで感激もしなかったが、完走メダルをもらったのは初めて。
こんなもので喜ばんぞと思いつつも予想外に重くて肩にずしり重さをと感じて充実感を味わう。
なんて単純な人間なんだろう。
MさんからJR駅行きの無料シャトルバスは乗るまでに大混雑し、バスを降りても駅まで遠いと聞いてたので、事前に天神行きの有料バスのチケットを買っていて大正解。
交通規制のため糸島の周辺の道路が混みあって西九州道、都市高速経由でも天神まで1時間かかった。
バスの前の席に座っていた中年の女性たちが、「今日はもう井尻の駅から自宅まで歩けん。タクシーで帰ろ」と言っているのに妙に共感。
バスは非情にも天神バスセンターではなく朝の集合地点あたりに着き、バスを降りたゾンビランナーの群れは足を引きずりながらバスセンターへと向かうのであった。
幸か不幸かと問われれば、決して不幸ではなかった福岡マラソンであった。


最後に一言、サブタイトルは間違いでした。
正しくは「私、完走したいので」でした。 お詫びして訂正いたします。

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2016-12-02